『九州全区受到高气压笼罩影响,今天应该会是晴朗的好天气!』

宫崎电视台的气象报导中,天气姊姊拿着魔法少女的魔法棒般色彩缤纷的棒子,圈起九州愉快地播报。


【资料图】

「我要开动了~」

我合掌之后,把一大坨奶油放到厚切土司上。

『九州全域は広く高気圧に覆われ、今日は爽さわやかな青空に恵まれるでしょう!』

テレビ宮崎のお天気お姉さんが、魔法少女のステッキみたいなカラフルな棒で九州をぐるりと囲みながら、にこやかに喋しやべっている。

「いただきまーす」

私は手を合わせてから、厚切りの食パンにどさっとバターを乗せる。

我一边在烤得脆脆的土司上涂奶油,一边看着天气姊姊。我满喜欢她的。雪国居民般的白皙肌肤,令人猜想她或许来自北国。「咔兹。」咬下面包,就发出诱人的声音。真好吃。微焦的表皮内侧柔软而微甜

,衬托出奶油的浓郁风味。我们家的餐桌上用的食材总是稍微有些高级。今天最高气温是二十八度,热度稍有缓和,应该会是舒适的九月天。天气姊姊的语调是完美无缺的标准口音。

「你今天别忘了带便当哪。」

私、ちょっと好きだな、この人。バターをざりざりと伸ばしつつ、お天気お姉さんを眺める。雪国めいた肌の白さが、なんとなく北国の出身かなと思わせる。バリッ。パンをかじると、香ばしい音が立つ。美味おいしい。焦げ目の内側はしっとりと甘みがあって、それをバターの濃厚さが引き立てていて。うちの食卓の材料は、いつもちょっとだけ高価なのだ。本日の最高気温は二十八度、暑さはやや緩み、九月らしい過ごしやすい一日となりそうです。お天気お姉さんのイントネーションは完かん璧ぺきな標準語だ。

「あんた、今日はお弁当忘れんでね」

环阿姨从厨房里用有些责备意味(虽然或许只是我多心了)的宫崎腔(注1)这么说。「好啦~」我的回应中加入了不会太过深刻的反省。环阿姨每天早上会替我做便当,但我有时会忘了带去学校。我不是故意的。虽然不是故意的,不过没有带便当的日子,我会稍微感到有些解脱。「真是拿你没办法哪。」环阿姨一边装便当一边噘起涂了红色唇蜜的嘴唇。环阿姨的打扮照例完美无瑕,围裙下摆露出修长的浅棕色西装裤,蘑菇头的短发光泽亮丽,一双大眼睛周围也上了眼妆。

「还有,铃芽,我今晚会晚一点回来。晚餐可以自己随便吃吗?」

「什么?你要去约会吗?」

我连忙吞下塞满嘴巴的荷包蛋。

「没问题没问题,你尽管去吧!就算过了十二点也没关系!偶尔也该去玩乐一下才行!」

「不是约会,是加班!」环阿姨否定我的期待。

台所から、ちょっと責めるような口調で──私が勝手にそう感じるだけかもしれないけど──、環たまきさんの宮崎弁が言う。「はーい」と深刻すぎない反省を口調に混ぜて私は返す。環さんが毎朝作ってくれるお弁当を、私は時々学校に持っていくのを忘れてしまうのだ。わざとじゃない。わざとじゃないけれど、お弁当を持たない日はほんのすこしだけ解放感がある。「仕方ない子ね」と、環さんはお弁当を詰めながら赤いグロスの唇を尖らせる。エプロンの下はすらりとしたベージュのパンツスーツで、マッシュショートの髪の艶つやも大きな瞳ひとみをぐるりと飾るメイクも、環さんには相変わらず隙がない。

「それから鈴芽、私、今夜ちょっと遅くなるわ。晩ごはん適当に済ませてくれん?」

「えっ! 環さんデート!?」

ごくんっ、頰張った目玉焼きを私は慌てて飲み込む。

「いいよいいよー、ごゆっくり! なんなら十二時過ぎちゃっても大丈夫だから! たまには楽しんでおいでよ!」

「デートじゃなくて、残業!」と、私の期待に蓋ふたをするように環さんは言う。

「我们要准备渔业体验活动。期限快要到了,所以有很多事情不处理不行。来,便当给你。」

她递给我L号尺寸的便当盒。今天的便当也很沉重。

天空就如天气姊姊说的万里无云,有几只老鹰在高空得意地飞舞。我骑着脚踏车,顺着沿海的斜坡往下骑。制服的裙子彷佛在深呼吸般,被风吹得鼓起来。天空和大海都蓝到令人难以置信,堤防的绿色则显得非常鲜嫩,触及海平线的云朵彷佛刚出生般雪白。我忽然想到,在这种地方穿着制服骑脚踏车上学的我,应该很适合拍照上传社群网站吧。我脑中浮现这样的照片:背景是在朝阳下闪耀的古老港口城镇,前景斜坡上有个穿制服

的身影在骑脚踏车;被海风吹拂的马尾绑在偏高的位置,粉红色脚踏车搭配以蓝色为背景的少女纤瘦(应该吧)剪影──真是太完美了,一定会得到很多赞吧……「喀!」此时我心中某个角落忽然变得僵硬。有一部分的内心冷冷地对自己说:哼~看着大海竟然能产生这种念头,你还满天真的嘛。

我轻声叹了一口气,把视线从感觉突然失去色彩的蔚蓝海面移开,望向前方。

「咦!」

前面有个人正在走上斜坡。在郊外的这一带很少看到行人,因此我感到有些惊讶。大人百分之百都是开车,小孩子由大人开车接送,我们这些国高中生则是骑脚踏车或轻型机车。

「漁業体験の準備。そろそろ迫っちょるかい、いろいろ処理せんといかんとよ。はい、お弁当」

Lサイズのランチボックスを、私は手渡される。それは今日もずっしりと重い。

空はお姉さんの宣言通りの快晴で、何羽かのトンビがずっと高い場所を得意げに舞っている。私は海沿いの坂道を自転車で下っている。制服のスカートが、深呼吸をしているみたいにばたばたと膨らむ。空も海も噓みたいに青く、土手の緑はどこまでも瑞みず々みずしく、水平線をなぞる雲は生まれたてのように白い。こんな場所を自転車で通学する制服姿の私は、けっこうSNS映えするんじゃないかなとふと思う。朝日に輝く古い港町を背景に、手前の坂道にはペダルを漕こぐ制服姿。そんな写真を思い浮かべる。潮風になびく高めのポニーテイルと、ピンク色の自転車と、青を背景にした少女の華きや奢しやな(たぶん)シルエット。まいったなこりゃ、だいぶいいね! がついちゃうな。……こちん、と、心の端っこがふいに硬くなる。ふーん。と、私の中の一部が呆あきれる。海を見ながらそんな気分なんて、ずいぶんお気楽だね、君。

私は小さく息を吐く。ふいに色いろ褪あせてしまったように見える海の青から、目をはがして前を見る。と、

「!」

誰かが、歩いて坂を登ってくる。町外れのこのあたりを歩いている人なんて極めて珍しいから、私はちょっと驚く。大人たちは百パーセント車移動だし、子供たちは大人の車に乗せてもらうし、私たち中高生は自転車か原付バイクだし。

──应该是个男人吧。他长得很高,长发和白色长衬衫随风摇曳。我轻轻握住手刹车,稍微减慢脚踏车的速度。那名陌生青年逐渐接近──会不会是旅客?他背着像是登山用的背包,穿着晒到发白的牛仔裤,跨着大步前进。微卷的长发遮住眺望大海的侧脸。我稍微加强握住手刹车的力道。这时海风突然变得强劲,青年的头发被风吹起来,露出眼睛的部位。我屏住气息。

「好漂亮。」

我不禁脱口而出。这名青年的肌肤彷佛与夏季绝缘般白皙,脸部轮廓锐利而优雅,长睫毛在瘦削的脸颊上投射柔和的阴影。左眼下方有一颗小小的痣,位置完美无缺,彷佛命中注定应该在这里。像这样的细节不知为何以近在咫尺般的解析度映入我的眼里。距离不断缩短。我低下头。脚踏车的车轮声音和青年的脚步声重叠在一起。我的心跳加快。我们在五十公分的距离擦肩而过。我以前、我们以前──我的内心在说话。所有的声音都变得缓慢。我们以前是不是曾经在哪里──

「请问一下。」

声音柔和而低沉。我停下脚踏车

回头。在这一秒之间,风景显得格外耀眼。青年站在我眼前,直视我的眼睛。

「这附近有没有废墟?」

「ㄈㄟˋ ㄒㄩ?」

──男の人だ、たぶん。すらりと背が高く、長い髪と白いロングシャツが風になびいている。私はかすかにブレーキを握り、自転車のスピードをすこし緩める。しだいに近づいてくる。見知らぬ青年──旅行者かな。山登りみたいなリュックを背負っている。日焼けしたジーンズに、大きな歩幅。すこしウェーブした長い髪が、海を眺める横顔を隠している。私はまたすこしだけ、ブレーキを握る手に力を込める。すると、ふいに海風が強くなる。青年の髪が風に躍り、その目元に光が当たる。私は息を吞のむ。

「きれい……」

口が勝手に呟いていた。青年の肌は夏から切り離されたように白く、顔の輪郭は鋭くて優雅。長い睫まつ毛げが、すっと切り立った頰に柔らかな影を落としている。左目の下には、ここにあるべきなんだという完璧さで小さなほくろがある。そういうディテイルが、どうしてか間近で見ているような解像度で私の目に飛び込んでくる。距離が縮まっていく。私はうつむく。私の自転車の車輪の音と、青年の足音が混じり合う。鼓動が高まっていく。五十センチの距離で、私たちはすれ違う。私は、私たちは──心が言う。ぜんぶの音がゆっくりになっていく。私たちは、以前、どこかで──。

「ねえ、君」

柔らかくて低い声。私は立ち止まり、振り返る。その間の一秒の風景が、やけに眩まぶしい。目の前に、青年が立っている。まっすぐに私の目を見ている。

「このあたりに、廃はい墟きよはない?」

「はいきょ?」

予想外の問いに、漢字が追いつかない。ハイキョ?

「扉を探してるんだ」

とびら? 廃墟にある扉ってこと? 自信のない声が出る。

意想不到的问题让我一时想不起汉字。ㄈㄟˋ ㄒㄩ?

「我在找门。」

门?是指废墟里的门吗?我用不太有自信的声音说:

「……如果是指没人住的聚落,应该在那边的山里……」

青年露出笑容。他的笑容很美。该怎么形容呢?就好像把周围的空气都染成温柔的气氛。

「谢谢你。」

青年说完转身背对我,朝着我指的那座山快步走过去。他的态度很果断,完全没有回头。

「……啊?」

我不禁发出愚蠢的声音。高空传来老鹰尖锐的鸣叫声。呃……这样会不会太干脆了一点?

* * *

警铃在我头上「铿铿铿」地响。我在等平交道时心跳仍旧有点快。那个人究竟是何方神圣?我望着轮流亮起又熄灭的红灯心想,实际见到艺人或模特儿之类的,大概就像那样吧──美到有些非日常的感觉,在目击之后也会持续兴奋好一阵子……不对,大概完全不一样。如果要比喻的话,那个人就好像──

路灯照亮的雪景。只有顶端沐浴在朝阳中的山峰。在伸手构不到的高处被风吹散的白云。与其说是帅哥,他更像那些风景般美丽。而且我觉得,很久以前好像看过那样的风景。对了,就像我梦境中的草原那种奇妙的怀念感觉──

「铃芽!」

「……人の住まなくなった集落だったら、あっちの山にありますけどぉ……」

青年はにっこりと微笑む。なんて言うか、周囲の空気ごと優しく染めるような、とても綺き麗れいな微笑。

「ありがとう」

青年はくるりと背を向けて、私が指差した山に向かってすたすたと歩いて行く。さっぱりと、すこしも振り返ることなく。

「……は?」

間の抜けた声が、思わず口から出てしまう。ぴーひょろろーと、トンビが高く鳴いている。え、だって、なんかあっけなくない?

* * *

頭のすぐ上で、カンカンカンと警報が鳴っている。踏切を待っている私の鼓動は、まだすこしだけ速い。あの人、なんだったんだろう──交互に点滅する赤を眺めながら、私は考えている。芸能人とかモデルとかって、実際に会うとあんな感じなんだろうか。ちょっと非日常的に美しくて、目撃後もしばらく興奮が残るような。……いや、違う。たぶんぜんぜん違う。あの人は、たとえば──。

街灯に照らされた雪景色とか。てっぺんだけ朝日を浴びている山頂とか。手の届かない高さで風にほどかれていく、まっ白な雲とか。イケメンっていうよりは、そういう景色みたいに綺麗な人だった。そして私は、その景色をずっと昔に見たことがあるような気がするのだ。そうだ、夢で行く草原の、あの奇妙な懐かしさのような──。

「すーずめ!」

とん、と後ろから肩を叩たたかれた。

有人从背后拍我的肩膀。

「早安!」

「啊,小绚,早安。」

黑色短发的小绚气喘吁吁地来到我旁边,似乎是跑来的。两节车厢编制的短列车经过我们面前,刮起一阵风,摇晃栅栏和裙子。这时我才注意到,周围有许多上学途中的学生在聊天。大家愉快地聊着「有没有看昨天的直播?」或是「我今天睡眠不足,好惨」之类的。

「咦?铃芽,你的脸是不是红红的?」

「什么?真的?红红的?」

我不禁把双手贴在脸颊上。脸颊是热的。

「真的好红。怎么了?」

怀疑的一双眼隔着眼镜盯着我的脸。我正犹豫着该怎么回答,警铃就好像宣告结束般唐突地停下来,栅栏也缓缓升起。停在平交道前的大家都同时往前走。

「怎么了?」

小绚回头看独自站在原地的我,这回用有些担心的口吻问。我心中想着那个像风景的人,还有那股既视感──我抬起脚踏车的前轮。

「抱歉,我想到有东西忘了带!」

我变换方向,跨上脚踏车,朝着回去的方向踩下踏板。「什么?等等,铃芽,你会迟到喔!」背后的声音越来越远。朝阳的压力使我汗流浃背,不过我仍以立姿骑脚踏车往山的方向前进。路上经过的小卡车司机狐疑地盯着身穿制服、却朝着和高中反方向急驰的我。我离开县道的柏油路,进入以老旧水泥固定的山路。海浪的声音突然被蝉声取代。我把脚踏车停在杂草中,跨过「禁止进入」的路障,快步爬上几乎像野兽路径的幽暗窄路。

「おはよ!」

「あ、絢あや。おはよう」

走ってきたのか、ボブの黒髪と息を弾ませた絢が隣に立つ。二両編成の短い列車が目の前を通過し、遮断機のバーとスカートを風で揺らす。他にも登校中の生徒たちの雑談が周囲に満ちていることに、今さらに気づく。昨日の配信観たー? とか、寝不足でやべっちゃわとか、皆楽しげに話している。

「あれ? 鈴芽あんた、なんかちょっと顔赤くね?」

「えっ、うそ! 赤い!?」

思わず両手で自分の頰を挟む。え、熱い。

「赤あけーね。どんげしたん?」

眼鏡ごしの不審そうな瞳ひとみが、私の顔を覗のぞき込む。どう答えようかと迷っていると、時間切れみたいに唐突に警報が止まり、遮断機のバーが上がっていく。踏切に溜たまっていた皆が、一斉に歩き出す。

「……どんげしたと?」

ひとり立ち止まったままの私を振り返り、今度はちょっと心配そうに絢が言う。──景色みたいな人。あのデジャヴ。私は自転車の前輪を持ち上げる。

「ごめん、忘れ物思い出した!」

方向転換して自転車にまたがり、来た方向に漕ぎ出す。え、ちょっとちょっと鈴芽、遅刻するが! 背中の声が遠ざかっていく。朝日の圧力で背中を汗ばませながら、私は立ち漕ぎで山に向かう。すれ違う軽トラのおじさんに、高校とは反対方向に急ぐ制服姿をじろじろと凝視される。私は県道のアスファルトを逸それ、古いコンクリートで固められた山道に入る。とたんに、海の音が蟬の声に塗り替わる。自転車を雑草の中で停め、「立ち入り禁止」のバリケードをまたぐ。ほとんど獣道のような薄暗い細道を、私は早足で登っていく。

……あれ、一限目の授業にはもう間に合わないじゃん。山を登り切り、眼下に古い温泉郷が見えたところで、私は息を吐きながらようやくそう思った。

……咦,第一节课已经来不及了──我爬上山顶,来到可以俯瞰下方温泉乡的地方,气喘吁吁时才总算想到这一点。

空气中隐约弥漫着硫磺的气味。

从昭和末期到平成初期,这一带据说是大型度假设施。在景气好、人又多、跟现在完全不同的那个时代,有来自日本各地的家庭、情侣或朋友等,特地到这种深山来泡温泉、打保龄球、喂马吃红萝卜、或是玩「太空侵略者」游戏(虽然我不知道那是什么)。我感到有些不可思议。不过在杂草埋没的聚落,仍零星残留着可以想见当年热闹景象的痕迹:生锈的自动贩卖机、破掉的红灯笼、晒到变色的温泉水管、遍布藤蔓的招牌、堆积如山的空罐、外观异常新的一斗罐(注2)、彷佛某种植物般在空中纠缠成漩涡状的大量电线──不用说我住的聚落,就连高中所在的市中心,东西都没有这座废墟这么多。

「呃,抱歉,有人在吗?」

即使东西很多,却看不到人影。温泉后来枯竭了,钱与人潮也随之枯竭。夏日阳光虽然把废墟照射得像游乐设施般活泼亮丽,不过还是难免有些恐怖。我走在因为长出杂草而裂开的石板地面,以超出必要的声量喊:

うっすらと、硫黄いおうの匂いが漂っている。昭和の終わりから平成の初めにかけて、このあたりは大きなリゾート施設だったそうだ。今からじゃ想像もつかないくらい景気も良くて人も多かった時代に、日本中から家族や恋人や友達グループなんかがこんな山奥までやってきて、温泉に入ったりボウリングをしたり馬に人にん参じんをあげたりインベーダーゲームに興じたり(知らないけど)していたのだ。ちょっと信じられない。それでも草に埋もれた集落のあちこちに、その賑にぎやかさの余韻は残っている。錆さびた自販機や破れた赤あか提ちよう灯ちん、日ひ灼やけした温泉パイプや蔦つたの絡まった看板、山積みになった空き缶や妙に真新しい一斗缶、そういう種類の植物のように頭上で渦を巻いているおびただしい電線。私の住んでいる集落はおろか、高校のある町の中心部と比べても、ここの廃墟の方がずっと物に溢あふれている。

「あのー、すみませんー!」

それなのに、人の姿だけがない。いつしかお湯が涸かれ、お金が涸れ、人が涸れてしまったのだ。夏の陽射しが廃墟をアトラクション的にポップに照らしてくれてはいるけれど、さすがにちょっと不気味だ。私は草でひび割れた石畳を歩きながら、必要以上に大声をあげる。

「那位帅哥~你在这里吗?」

没办法,除此之外我不知道该怎么称呼他。我渡过小小的石桥,前往废弃饭店。听说这里过去原本是这座度假村的中心设施。饭店是一座圆形水泥建筑,比起周围的破屋大许多,因此格外醒目。

「打扰了……」

我踏入宽敞的饭店大厅。散落着瓦砾的地板上摆了好几张沙发,窗边垂挂着破碎的巨大窗帘。

「你好~有人在吗?」

我环顾四周,走在昏暗的走廊上。天气明明很热,可是我从刚刚就感到背上寒毛直竖。也许我太小看废墟了。我用更大的声音喊:

「那个~我觉得~我好像在哪里看过你!」

说出来我才想到,好像怪怪的。这简直就像是搭讪时的经典台词。

……回去吧。我突然觉得很蠢。此刻我才感到不好意思。就算见到那

个青年,我打算做什么?假设处在相反的立场,我只是问个路,对方就一直跟踪我,那未免有点……不,是非常恐怖。说真的,我也开始觉得这个地方真的很恐怖了。

「我要回去了!」

我刻意开朗地大声说完,转身要走。这时我从眼角瞥见某样东西,因而停下脚步。

「……门?」

我从走廊到外面,就看到饭店的中庭。在天花板已经完全崩落、

「いますかー、イケメンの人ぉーっ!」

だって、他に呼びようがない。私は小さな石橋を渡り、かつてこのリゾートの中心施設だったらしい廃ホテルへと向かう。円形のコンクリート建築で、周囲の廃屋に比べてひときわ大きく目立っている。

「おじゃましまーす……」

広々としたホテルのロビーに、私は足を踏み入れる。瓦が礫れきが散乱した床には幾つものソファーが並び、窓にはちぎれた巨大なカーテンがずらりと垂れ下がっている。

「こんにちはー! ねえ、いますかーっ?」

あたりを見回しながら、薄暗い廊下を歩く。暑い日のはずなのに、実はさっきから背中にぞくぞくと悪寒がある。廃墟なめてたかも。私はなおさらに大声を張り上げる。

「あの、わたしーっ! あなたとーっ、どこかで会ったことがあるような気がーっ!」

口に出してみて、なんだかな、とふと思った。だって、これじゃナンパの常じよう套とう句くだ。

……帰ろっかな。なんだか急にばからしくなる。今さらに恥ずかしくなる。あの青年に会えたとして、私はどうするつもりだったのだろう。もし逆の立場だったら、もし道を尋ねただけの相手がどこまでも私の跡を追いかけてきたとしたら、それはちょっと、だいぶ怖い。ていうかこの場所がそろそろ本気で怖い。

「かーえろ!」

ことさらに明るく大きな声で、私はくるりと方向転換する。──と、目の端にちらりと映ったものが、私の足を止めた。

「……扉?」

廊下から出ると、そこはホテルの中庭だった。すっかり天井の落ちた

只剩下钢筋的圆顶下方,有一块几乎可以进行一百公尺赛跑的广阔圆形空间,地面上积了很浅的透明水洼。在水洼的中央,矗立着一扇白色的门。在散落的砖块及遮阳伞残骸之间,只有这扇门彷佛得到某人的特别许可,或是被禁止崩塌一般,孤独而醒目地矗立在那里。

「对了,那个人有提到门……」

我像是在找借口般说出口,然后走向那扇门。当我要走下通往中庭的矮石梯时,停下了脚步。不知是雨水或是从某处仍旧有水流入,铺磁砖的地板上积的水有十五公分左右深。弄湿皮鞋没关系吗──我脑中刚浮现这个问题,下一个瞬间已经走在水中了。水进入鞋子里的触感让我顿时感到怀念,水温出乎意料地冰冷也让我感到惊讶,不过当我继续走向前方,就把这一切都抛到脑后。

不知为何,我的视线无法移开矗立在眼前的那扇白色的门。那是扇很旧的木门,上面攀附着藤蔓,处处有油漆剥落,露出棕色的木纹。我发觉到这扇门微微打开着,约一公分的这道缝隙异常黑暗。为什么?天气这么晴朗,为什么这道缝隙这么暗?我感到相当在意,无法视而不见。细微的风声吹入我的耳廓。我把手伸向黄铜色的圆形门把,用指尖轻轻触摸。虽然只是轻轻碰到,门却发出「唧」的声音打开了。

「唔……」

我发出不成声的惊叹。

门内是夜晚。

すかすかの鉄骨ドームの下に、百メートル走が出来そうなくらいの広さの円形の空間があり、地面には透明な水が薄く溜たまっている。その水溜まりの中央に、白いドアがぽつんと立っていた。他にもレンガとかパラソルの残ざん骸がいとかが散らばっている中で、そのドアだけは誰かから特別に許されたみたいに、あるいは崩れることを禁止されてしまったかのように、孤独にくっきりと立っていた。

「あの人、扉って言ってたよね……」

なんだか言い訳のように私は口に出し、ドアに向かう。中庭へと降りる低い石段の途中で、足が止まる。雨水なのか、それともどこかからまだ水が来ているのか、タイル敷きの床に溜まった水には十五センチほどの深さがある。ローファーを濡ぬらしていいのかな──と思った次の瞬間には、私は水の中を歩いていた。靴に水が入る感触にふいに懐かしみを感じ、予想していなかった水の冷たさに驚き、でも歩きながらすぐに、私はそういう全部を忘れた。

目が、なぜか離せない。すぐ目の前に、白い扉が立っている。古い木のドアだ。蔦が絡まり、所々ペンキがはげて茶色い木目が露出している。そのドアがほんのすこしだけ開いていることに、私は気づく。一センチほどのその隙間が、奇妙に暗い。どうして。こんなに青空なのに、どうして隙間がこんなに暗いのだろう。私は気になって仕方がない。耳のひだに、風の音がかすかに吹き込んでくる。真しん鍮ちゆう色の丸いドアノブに、私は手を伸ばす。指先でそっと触れる。そっと触れただけなのに、きい、と音を立て、ドアが開く。

「──っ!」

声にならない息が漏れた。

ドアの中には、夜があった。

满天的星星以令人难以置信的亮度闪闪发光,地面是一望无际的草原,风在草原上呼啸。怀疑自己脑筋变得不正常的恐惧、怀疑自己在做梦的混乱、以及「你早就知道了吧」的念头,像浊流般形成漩涡。我从水中抬起左脚,想要踏到草原上。皮鞋鞋底踩在草上的触感浮现在我脑中──然而鞋子却「啪」一声再度踩入水里。

「咦?」

这里是白天的中庭,不是星空下的草原。

「什么?」

我连忙环顾四周。这里依旧是饭店的废墟。我回头看门。门内呈现着夜晚的空间,宛若只有那里从夏季被切开一般。

「为什么……」

我想要思考,但身体却开始奔跑。门越来越近,星空越来越近。我穿过门──但仍旧置身于废墟。我连忙回头,再次冲进门内的星空底下──然而这里还是废墟。我无法进入草原。我不被允许进入。我往后退,鞋子踢到坚硬的东西,发出类似敲钟的「铿~」的声音。我惊讶地低头看下方。那是……地藏菩萨?小小的石像从水面探出头。这尊石像长了一对像稻荷神社狐狸雕像的大耳朵,倒三角形的脸上刻了眯成一条线的眼睛。

満天の星が、噓みたいな眩まぶしさでぎらぎらと光っている。地表にはさんざめく草原が、どこまでも続いている。頭がおかしくなっちゃったのかもという恐怖と、夢を見ているのかという混乱と、知っていたはずだよねという合が点てんが、濁流みたいに渦を巻く。私は左足を水から持ち上げて、草原に一歩踏み込もうとする。ローファーの底が草を踏む、その感触が頭に浮かぶ──と、ぱしゃん、靴はまた水を踏んだ。

「えっ!?」

そこは真昼の中庭だ。星空の草原じゃない。

「ええっ!?」

慌てて周囲を見渡す。変わらぬホテルの廃はい墟きよだ。ドアを振り返る。ドアの中には、そこだけ夏から切り離されてしまったかのように、ぽっかりと夜がある。

「なんで……」

考えようとしたのに、体が駆け出していた。ドアが迫る。星空が迫る。ドアをくぐる──と、そこは廃墟である。慌てて振り返る。ドアの中の星空に、もう一度駆け込む。それでもやっぱり、そこは廃墟。草原には入れない。入れてもらえない。後ずさる。と、靴が硬い何かにあたり、コオォォォン……と澄んだ鐘のような音が響いた。驚いて足元を見る。……お地蔵さま? 小さな石像が、水面から頭を出している。稲荷いなり像みたいに大きな耳のついた逆三角形の顔に、糸状に細めた目が彫られている。私はじっと見つめる。そうせずにはいられない。まるで話しかけられているように、ざわざわとした風の音が耳で巻いている。両手を石像に触れる。そのまま持ち上げると、引き抜くような感触があり、ボコ、と水中に大きな泡が昇った。

我注视着这座雕像。我无法不注视它。在我耳边骚动的风声,就好像在对我说话一般。我的双手接触石像。我把石像拿起来,感觉到它好像被连根拔起,水中「咕噜」地冒出很大的泡泡。我低头检视拿在手中的石像,发现它的底部像短拐杖般尖尖的。难道这座石像原本插在地上?

「好冰……」

它的表面结了冰,薄薄的冰膜彷佛被我的体温驱逐般不断融化,形成水滴往下滴落。为什么在夏天的废墟里面会结冰?我回头看门。门内确实存在着星空底下的草原。至少在我眼

中是确实存在的。

噗通!

我突然感受到石像的温度,低头一看,发现自己的双手抓着全身长了毛的柔软生物。

「哇啊!」

鸡皮疙瘩从双手扩散到全身。我立刻把「那东西」丢出去,在稍远的地方溅起水柱。接着那东西溅起激烈的水花,在水中快速奔跑,以小型四足动物般的动作跑向中庭边缘。

「什么~」

那、那原本是石像吧?

「哇啊啊啊……好可怕!」

我不禁卯足全力奔跑。这不是真的吧这是在做梦吧还是说这种事其实很常发生呢大家一定都有经历过只是没说出来吧嗯没错一定是这样没错!我必须尽快到教室里,跟大家分享这个故事然后哈哈大笑才行。我怀着这样的念头,沿着来时的路不停奔跑。

只有我们看得到的东西

手に持った石像を見下ろす。短い杖つえのような形に底が尖とがっている。地面に刺さっていたってこと?

「冷たい……」

凍っているのだ。薄い氷の膜が私の体温に追い立てられるように溶けていき、雫しずくとなってぽたぽたと落ちる。なぜ。どうして夏の廃墟に、氷があるのか。私は扉を振り返る。ドアの中には確かに、星空の草原がある。確かにあるように、私の目には見える。

ドクン!

突然、石像に体温を感じた。見ると、両手は毛に覆われた柔らかな生き物を摑つかんでいる。

「きゃあっ!」

両手から全身に鳥肌が走り、私はとっさにそれを放り投げた。ぼちゃん! と離れた場所に水柱が上がる。と、それはバシャバシャバシャ! と激しく飛沫しぶきを上げて、水中を素早く走り出した。小さな四つ足動物のような挙動で、中庭の端の方に去って行く。

「えええええ!?」

え、だってだって、石像だったよあれ!

「うわあああ……怖っ!」

私は堪たまらずに、全力で駆け出した。噓だよね夢だよねそれともこういうことってわりと頻繁に起きてるのかな皆実は体験していて言わないだけなのかなうんきっとそうだよねそうに違いない! 一秒でも早く教室に行き、この出来事を友達と笑い飛ばさなければ。それだけを考えながら、私は来た道をひた走った。

私たちにしか見えないもの

午休时间的钟声响起。「喂,岩户,你现在才来呀?」「咦?铃芽,你的脸色好差,怎么了?」有几个人问我,但我只是回以含糊的笑容,走入自己的教室。

「……你总算来了。」

小绚坐在窗边的位子,一边吃便当一边以惊叹的表情说。

「铃芽,你这是董事长的上班时间吧?」

一旁的麻美笑了笑,把煎蛋放入嘴里。

「呃……对呀。」

我挤出笑脸,面对两人坐下。中午的喧嚣声、窗外黑尾鸥的叫声,此时才总算传入我的耳中。我半自动地从背包拿出便当盒,打开盒盖。

「哇,阿姨便当出现了!」

两人兴致盎然地喊。饭团用海苔、樱花鱼松粉做成卡通造型的麻雀脸

孔,鸡蛋丝做成爆炸头,豌豆是鼻子,香肠是粉红的脸颊。煎蛋、小香肠和炸虾也都有小小的眼睛和嘴巴。「今天的便当也好有爱唷!」「阿姨做这个便当要花多久的时间?」我姑且发出「嘿嘿」的笑声,抬起头看两人。我笑得不是很自然。

「那个……你们知道上之浦那边有座废墟吧?就是以前的温泉街。」

我试着问两人。

「有吗?小绚,你知道吗?」

昼休みに入ったことを告げるチャイムが、きんこんかんと鳴っている。おう岩いわ戸と、今来たと? あれ鈴芽、なんや顔色悪いっちゃない? 何人かの言葉に曖あい昧まいな笑みを返しながら、私は自分の教室に入る。

「……やっと来た」

窓際の席でお弁当をつつきながら呆あきれ顔の絢が言い、

「重役出勤やねえ、鈴芽ぇ」

その隣で、半笑いのマミが卵焼きを口に入れる。

「あー……まあ、うん」

私は笑顔を作りながら、二人と向かい合わせに腰を下ろす。お昼時のざわめきと窓からのウミネコの鳴き声が、思い出したように耳に届き始める。私はなかば自動的にリュックからお弁当箱を取り出し、蓋ふたを開ける。

「きゃー、出たわー、おばさん弁当!」

二人が面白そうに声を上げる。おにぎりが、海の苔りや桜でんぶで飾られて雀のキャラ顔になっている。錦きん糸し卵たまごがアフロヘアになっている。グリーンピースが鼻になっている。ソーセージがピンクの頰となっている。卵焼きにもウィンナーにも海え老びフライにも、にっこり笑う目と口がある。今日も愛が深ふけえねえ。これ作るのにおばさんどんだけ時間かかっちょっと? えへへ、と私はとりあえず笑い声を返してから、顔を上げて二人を見る。あまり上手うまく笑えない。

「あのさあ……上かみ之の浦うらの方に廃墟あるでしょ? 古い温泉街」

と、私は二人に訊きいてみる。

「え、そうなん? 絢、知っちょる?」

「嗯,好像有。听说是泡沫时代的度假设施,在那边的山里。」

我们一起抬头看小绚指的方向。被晒得褪色的窗帘随风摇曳,在那外面,可以看到午后安详的港口城镇。岬角包围着小小的海湾,上面是低矮的山。那里就是我先前所在的地方。

「那里怎么了?」

「那里有门……」我刚说出口就发现,原本那么想要说出来跟大家一起笑的心情已经完全萎缩。那不是梦,但也不是能够和朋友分享的经验。那是更私人的──

「还是算了。」

「什么嘛!把话说完!」

两人异口同声地说。因为听起来很好笑,我自然而然笑出来。在此同时,我忽然发现,在两人的脸后方,那座山冒着细细的烟。

「那里是不是失火了?」

「什么?哪里?」

「你们看,就在那座山那里。」

「哪里呀?」

「看!那里在冒烟!」

「什么?到底在哪里?」

「……咦?」

我指着远方的指尖失去力量。

「你有看到吗?」「没看到。是不是哪里在烧田?」我看着两人皱起眉头交谈,然后又再度望向山的方向。红黑色的烟从山腰袅袅上升。那道

烟以蓝天为背景,看起来明明这么清楚。

「哇!」

裙子口袋里的手机突然发出声音。同样的声音在周围同时响起。以大音量反覆、感觉很吓人的不和谐音,是地震警报的通知音效。教室内掀起轻微的尖叫声。

「地震!」「真的吗?有在摇吗?」未完待续。。。

「ああ、あるみたいやね、バブルの頃のリゾート施設。あっちの山ん中」

絢の指差す先を、私たちは揃って見上げる。風に揺れる日ひ灼やけしたカーテンの向こうには、昼下がりの穏やかな港町。小さな湾を囲む岬があり、その上に低い山がある。さっきまで私がいた場所だ。

「それがどうかしたと?」

「ドアが……」と口にした瞬間、あれほど笑い飛ばしたいと願っていた感情がすっかりしぼんでいることに私は気づく。あれは夢じゃない。でも、友達とシェアできるようなこともでもない。あれはもっと個人的な──。

「やっぱいいや」

「なによ! 最後まで言いないよ!」

二人の声がぴったりと揃う。それが可笑おかしくて、ようやく自然に笑みが出た。同時に、あれ、と私は気づく。二人の顔の向こう、あの山から、細い煙が立っている。

「ねえ、あそこ、火事かな?」

「え、どこ?」

「ほら、あの山のとこ」

「え、どこお?」

「ほら! 煙が上がってる!」

「ええ、だからどこねぇ?」

「……え?」

伸ばした指先から、力が抜ける。「あんた分かる?」「分からん。どっかで野焼きしとるとか?」眉まゆ根ねを寄せて言い合う二人を見て、それからもう一度山を見る。赤黒くゆらめく煙が、山の中腹から昇っている。青空を背にこんなにもくっきりと、その煙は見えている。

「わっ!」

突然、スカートのポケットの中でスマホが音を立てた。同じ音が周囲からも一斉に湧き立つ。大音量で繰り返される恐ろしげな不協和音、地震警報のブザー音だ。教室中に小さな悲鳴が上がる。

「え、地震やって!」「ええっ、まじ、揺れとる!?」

上一篇:当前消息!啄木鸟系列(啄木鸟系列怎么看)

下一篇:最后一页

x

推荐阅读

更多